「並ばない万博」に母娘で並んできました。

待ち時間嫌いな人間が
並んで並んで
ひたすら並んだ結果
得たものは…?

シニア入門日記(WEB版)-2


待ち時間がきらいで行列に並ぶのが苦手な私。「並ばない万博」という触れ込みの大阪・関西万博へ行ってきました。

今回の旅のテーマはアート、各国の民族料理食べ歩き、防災。
アートや大規模災害の対策を見て回ることは一人でできても、食べ歩きとなると還暦女性一人の胃袋では限界があるため、遠方に住んでいる20代の娘2号を誘いました。

10代の頃、「私の胃袋は宇宙」と豪語していた娘との久しぶりの二人旅に、母である私は張り切ってホテルや万博の予約を担当しました。
事前にパビリオンの予約を押さえていれば、触れ込み通り「並ばない万博」になるはず。

そのために予約攻略法を発信している人のSNSやYouTubeをいくつもチェックし、2人分2日間の予約に挑戦したものの、すべて落選。
結局、予約ゼロの丸腰の状態で平日の万博会場へ乗り込むことになりました。

「1週間前に行った知人に聞いたら、平日は予約なしでも何とかなるらしいよ」「入場も15分かからなかったんだって」役に立たなかった予約担当者を気遣う娘の言葉に励まされ、地下鉄を降りて入場ゲートへ。

しかし、そんなのんびり母娘の小さな期待はゲートを目にした途端に打ち消されました。
広大な東ゲートに見渡す限り、立ち尽くす人、人、人。11時に入場予約した私たちがようやく会場入りできたのは12時20分でした。

出足が遅れ、会場内はどのパビリオンも長蛇の列。
フランス館でテイクアウトのクロワッサン一つ買うにも「現在40分待ち」と書かれたサインボードが掲げられていて、自分たちの甘さを思い知らされました。

それでも列に並ぶ時間が惜しく、「空いているところから回ろう」と探し回りましたが、そんな作戦ではどこも入れず、何も食べられません。
仕方なく「30分までなら並ぶのはやむなし」と妥協し、おとなしく行列の末尾につくことに。
その結果、娘と仕事や将来の話をしているうちに入場の順番が回って来ることが多く、あんなに回避しようとした待ち時間も思いがけず楽しめました。

2日間の母娘・万博見物を終えて現地解散した私たち。
帰路につくと娘からこんなLINEが送られてきました。「待ち時間にいろんな話ができて良かった」。

「行列はきらい」と言い張っていた私が、初めて「行列があって良かったかも」と思えた2日間でした。

河北新報2025年5月25日掲載
「井上きみどりのシニア入門日記」