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「母娘時間」

 春休みを利用して中学3年生になった娘2号と二人で沖縄旅行をしました。
娘達の小中高の記念旅行として、高校卒業までに一人につき合計3回の母娘二人きりの旅をするのがわが家の恒例行事になっています。

 二人の娘は6歳違い。幼い妹に邪魔されてなかなか二人きりの時間を作ってやれない1号への罪滅ぼしのつもりで始めた母娘二人旅がきっかけでした。今回の旅も、仕事で普段あまり一緒にいてやれない思春期の2号と会話をするのが目的。「旅」とは言いつつ、観光もマリンスポーツの予定も入れず、隠れ家のような貸しコテージでテレビも付けず、ただ静かに滞在していただけでした。

 そして今回の旅には、二人それぞれの小さな挑戦がありました。
母親である私にとって、この旅は1年間の疲れを癒すリフレッシュ休暇を兼ねていたので、私のチャレンジは「何も読まず、何も書かず、何も考えないこと」。その間、仕事のメールは一切送受信しないことを関係者に宣言し、いつも持ち歩いているノートパソコンは自宅に置いてきました。
娘のチャレンジは、沖縄出発の前日に、母親の出張先である東京まで一人で上京すること。初めての新幹線単独乗車も、初めての単独上京も難なくクリアし、待ち受けていた私のところへやってきた娘。
しかし私はというと、1日目の夜中に主催している悩み相談のメール窓口へ緊急度の高い相談が入り、とても無視できる状況ではなかったので、チャレンジ期間の初日に禁を破って携帯していたiPhoneから相談者へメールの返信をしました。

 夜中に1時間以上iPhone片手に苦闘している私に気がついた娘が、朝になって「長い時間、どこにメールしていたの?」と聞くので、震災後設立した心のケアのプロジェクトについて説明してやりました。
その他に私の仕事や、個人的に関わっている社会活動について朝食をとりながら話すと、娘はどうやら私が家の外でどんなことをしているのか全く知らなかったようで「忙しそう、忙しそうと思っていたけれど、なぜ忙しいのか初めてわかった」と言います。

 そういえば私は今まで、娘達の話を聞くことに集中し、自分の話を彼女達にしていなかったと気がつきました。
今年15歳になる彼女。そろそろ一人の人間として、人生の話をしてみようか、と思った母娘二人旅でした。

(2014年4月15日・河北新報掲載)

公式Blog『きみどり文庫』でも新作漫画連載しています。

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